歴史を覆す異種同士の接木実現と植物の環境適応能力 京都大学 野田口教授にインタビュー

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今回は京都大学の野田口教授にインタビューしました。

野田口教授は、2000年の接木の歴史を覆す発見をした後、接木を通して植物の環境適応能力を探り、今世界中で抱える農業問題の解決や植物との共存を目指しています。

接木の研究を始めたきっかけ

テラリウム編集部:接木の研究を始めたきっかけを教えていただけますか?

野田口教授:元々は花芽の形成に関わるフロリゲンという植物ホルモンの研究をしていたんです。フロリゲンが本当に植物の体内を移動して花を咲かせるスイッチを入れているのか確かめたくて、フロリゲンを生成できない植物とできる植物を接木して、生成できない植物の体内にフロリゲンが運ばれた時に花芽が形成されるのかを実証するため接木を用いました。

接木は農業だけでなく科学実験でもよく使われる技術で、目的に応じて100種類くらいの方法があります。果樹が大きくなりすぎないようにわざと組み合わせを悪くしたり、逆にたくさん実をつけさせるために生命力旺盛なものと組み合わせたりと、様々な組み合わせがあるんですよ。

接木の切断面で起こっている修復プロセス

テラリウム編集部:接木を行う時、異なる植物同士が繋がるために接木の切断面ではどのようなことが起こっているのでしょうか。

野田口教授:私たちの体が傷を治すのと同じように、植物にも傷を治す能力があるんです。細菌などの侵入を防ぐため傷ついた表面を塞ぐ働きや、植物体内の切断面を繋ぐために新しく細胞を作る働きなど、色んなことが同時多発的に起きています。でも、これまでは似たような体内組織を持つ近縁の植物同士じゃないとうまくいかないと言われていたんです。それは、組織同士が繋がる時、それぞれの位置情報を伝え合って繋がっていくのですが、植物の科が違うと言語が違うからうまく伝わらないためだと考えられています。

タバコが2000年の接木の歴史を塗り替えた!?

テラリウム編集部:タバコ属がほとんどすべての陸上植物と接木できるとわかった経緯を教えていただけますか?

野田口教授:海外の大学で研究員をしていた時、シロイヌナズナとその近縁種同士を接木して、片方が生成する遺伝子産物をもう片方の植物体内から検出されるか研究をしようとしたところ、ゲノム情報が近いので検出される成分の区別がすごく難しかったんです。

別の種同士の植物を接木できれば区別できるのにと考えましたが、なるべく近縁種の植物同士でないと成功しないというのが、2000年以上続く接木の歴史の中での常識でした。

そうやって研究に行き詰まった時、思い切って大学にあった研究用植物を手当たり次第に接木してみたんです。すると不思議なことに、他の接木が枯れていく中、タバコとシロイヌナズナの接木だけが生き残ったんです。これがきっかけで、タバコが他の多くの植物とも接木できることがわかって、研究も無事進みました。奇跡は起きるのだなと思いました。

テラリウム編集部:奇跡的発見の瞬間ですね!タバコは実験植物としてよく使われるそうですが、どのような特徴があるのでしょうか?

野田口教授:普通は免疫応答といって自分と異なるものが入ってきたら拒絶反応を起こすのですが、タバコは割となんでも受け入れて繋がっちゃう。またあらゆる病気が感染するので、病理研究としても使われています。通常は病気に感染した時免疫に体力を使ってしまい成長が止まってしまいますが、タバコは関係なく成長していきますね。

前例のないことを証明していく難しさ

テラリウム編集部:この研究で一番苦労したことは何でしたか?

野田口教授:接木は昔から行われてきましたが、その仕組みについての研究はほとんど行われてきませんでした。なので原理を理解しようとする際に分子レベルの情報がほとんどないことに一番苦労しました。まずは通常の接木の原理を紐解かないと、今回の異なる植物同士の接木がなぜすごいのかがわからないですからね。

また、異種同士の接木が実現したという発見は、2000年以上の接木の歴史を覆すような、今までの常識とかけ離れた内容だったので、そのような信じがたい内容をどうしたら信頼してもらえるのかという点でも苦労しました。毎日写真などのたくさんのデータを取ってそれを一人で整理するのが大変でしたね。

農業の未来に与える影響

テラリウム編集部:今回の研究を踏まえてどのような農業の問題解決や発展が期待できますか?

野田口教授:この技術を使えば、ストレス土壌でも作物を育てられるようになるかもしれません。例えば、吸水性の高い根に作物を接木することで乾燥した地域でも育つようにしたり、塩害土壌で塩に強い植物の根を使って作物を育てれば、今まで使えなかった土地を活用できるようになります。それだけで十億ヘクタール規模の利用不能になっていた土壌を再利用でき、森林の開墾などをストップさせることができる。

また現在の農業は経済合理性を重視して1種類の作物しか育てないモノカルチャーが主流になっていますが、そうすると病気のパンデミックが起きてしまう。作物は単一で、その根だけを接木で様々な植物のものを使うことで、生物多様性と経済合理性を両立できるようになるのではと考えています。ただ、これらの実現には時間がかかると思います。

世界の耕作地の約4割が「ストレス土壌」

テラリウム編集部:ストレス土壌とはどのような土壌の状態を指すのでしょうか?

野田口教授トレス土壌というのは、人間の農業活動によって偏りの強くなった土壌のことです。酸性が強くなったり、塩害が起きたり、乾燥が進んで栄養分のある部分が風で飛ばされてしまい貧栄養の状態になった土壌などのことを指します。実は、世界の耕作地の約4割がこのストレス土壌なんです。

植物が環境に適応できる仕組みを探究

テラリウム編集部:現在は他にどのような研究に取り組んでいらっしゃいますか?

野田口教授:接木の研究を通じてどうやってストレスを克服しているのかがわかってきていて、ストレス環境下でうまく実らない作物のケアを助けてあげられるようになるかもしれない、ということを研究しています。

単純な接木の話だけではなく、その研究がどんな波及力があるのか、そこからどんな可能性が見出せるかを考察しながらやっていますね

なぜ植物がこんなに繁殖できているのか、どうやって環境に適応しているのかという理解がまだまだ人間の科学力では分かっていない。そこを理解しないと、これだけ人間の活動によって短期間で環境が変わる中どんな風に植物をサポートしていけばいいのかわからないので、そういったことがいつも研究の中心となっています。

研究を続ける原動力

テラリウム編集部:最後に、先生の研究への思いを聞かせてください。

野田口教授:私たちの未来のためには、植物との共存が不可欠です。植物がどのように環境に適応しているのか、そのメカニズムを理解することで、私たちがどのように植物と付き合っていけばいいのかがわかってくると思うんです。それが私の研究の原動力になっています。

お話を聞いた人のプロフィール

名前野田口 理孝
職位教授
所属組織京都大学 大学院 理学研究科 生物科学専攻
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編集者・ライター
TERRARIUM編集部です。SDGsや環境に関連するコラムをお届けします。
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