牧野富太郎博士の功績を伝える「高知県立牧野植物園」を取材【広報課インタビュー】
高知県立牧野植物園は、牧野富太郎博士の逝去の翌年となる1958年に開園された歴史ある植物園です。
2023年には、牧野富太郎博士がモデルとなる、NHKの連続テレビ小説「らんまん」が放送されたことで、植物園名に聞き馴染みがある方も多いのではないでしょうか。
今回は、そんな牧野植物園の魅力を伝えるために、担当者へのオンラインインタビューを行いました。取材を受けてくださったのは、広報課の橋本様です。
牧野植物園の特徴や他の植物園との違いについて教えていただけますでしょうか?
橋本様:高知にある植物園になるんですけども、高知植物園という名前ではなく、牧野植物園という個人の名を冠した植物園になっていまして、それは日本で唯一になっています。
TERRARIUM編集部:確かに他の植物園様を見てみると地名が付けられていることがほとんどですね。
橋本様:そうですね!特定の個人の業績を顕彰している植物園は、日本では当園のみですし、世界でもほとんど例がありません。牧野という名前は、高知県出身の植物分類学者である牧野富太郎博士のことで、その方の業績を顕彰することが目的になっています。植物の保全や魅力を伝えること、憩いの場の提供はもちろんですが、その他の大きな柱として、牧野博士を広く伝えるという点がほかの植物園にはない役割となっています。
TERRARIUM編集部:今では、牧野富太郎博士と言うと伝わることも多くなっていますし、高知県外にも多く広まっていそうですね。牧野植物園は憩いの場としてだけでなく、植物の保全など、複数の役割を担っているのでしょうか?
橋本様:種の保全や憩いの場に加えて、研究活動なども行っており、それらを兼ねそなえた総合植物園として、四国では唯一となっています。牧野博士を生んだ高知県の野生植物の栽培管理はもちろん、教育普及も役割の1つになっています。
TERRARIUM編集部:高知の野生植物を見ることができるのですね。野生植物は、自然に育ったような形で見ることができるのでしょうか?
橋本様:「鉢で展示する」ということは、ほとんどしておらず、自然に近い形で植物を植栽しています。当園は、五台山と呼ばれる標高130mほどの山頂付近に位置していまして、山の地形をそのまま生かした植物園ということも特徴的です。
TERRARIUM編集部:山を切り開いて整備するなどはせずに、できる限り自然のままの形を利用されているのでしょうか?
橋本様:おっしゃるとおりです。山を切り開いて平地にしたり、反対に土を盛ったりということをほとんどしていないため、植物園に平地がほとんどないんです。そのため、登り道や下り道が多いのも特徴で、山の中を散策しているかのように感じられると思います。
TERRARIUM編集部:自然な環境に感じられそうですので、植栽なのか自然に生えている植物なのか見分けるのも難しそうですね。
橋本様:もともと五台山に自生している植物にも植物の解説パネルを付けている箇所もあります。スギやヒノキなど以前に植林されたものは伐採し、それ以外の山に自生していた植物は、極力そのまま残しています。
牧野植物園にはどのような層の方たちが訪れることが多いのでしょうか?
橋本様:数年前などは、高知県内のご年配の方が多かった印象ですが、ここ最近は新しいイベントを開催していることもあり、若い方が増えてきています。また、憩いの場という形で芝生の広場を作ったこともあって、週末に家族連れの方がお越しになったりですとか、イベントのときにはフォトスポットも設けるので、学生さんであったり若い年齢層の方が来てくださる機会が増えています。植物にがっつり興味のある方だけでなく、もう少しライトな層の方たちが増えてきているのは、近年になって感じるところです。
TERRARIUM編集部:それこそ、NHKで放送されていた「らんまん」の影響で、足を運んでみたいという方も増えていそうですよね。
橋本様:県内での視聴率も高かったようで、「今まで近くにあるのは知っていたけど、朝ドラがきっかけで行こうと思いました」という方もいらっしゃいました。県外の方でも、朝ドラをきっかけに訪ねてくださる方が増えています。
TERRARIUM編集部:地元の方ですと、過去に行ったことがあるけど、ドラマをきっかけにもう一度足を運びたくなったというケースもありそうですね!
橋本様:実際にお声を聞いてみると、「2回目です」と答えてくださる方も多くて、「1回目は子どものころ遠足で来ていてそれ以来です」という方がすごく多いです。
TERRARIUM編集部:ドラマで放送されたことで、観光地化しているという点はありそうですね!時期によって、来園者数は変わるものでしょうか?
橋本様:春の桜のシーズンと、秋の紅葉のシーズンは多くなります。ただし、他の時期でも見頃の植物が変わってくるので、「こういう花が咲きました」「こういうイベントを開催します」というような広報をすることで、波は少なくなっているかと思います。
「らんまん」の影響で実際に来園者数は増加したのでしょうか?
橋本様:今年で65年目になるんですけども、令和4年度が21万人という数で、過去最高の来園者数になりました。令和5年度におきましては、この前の日曜日(2024年2月11日)に40万人を超えていまして、去年の人数を既に超えている形です。
TERRARIUM編集部:3月末まで1ヶ月以上の期間がありますが、すでに倍近くの人数になっているんですね!
橋本様:そうですね!近年は2月~3月で5万人近くの方にご来園いただいているので、おそらく昨年度の倍以上にはなるかと思います。2月には「ラン展」という人気のイベントがありまして、3月になると桜のシーズンになりますので、来てくださる方もさらに増えると予想しています。
TERRARIUM編集部:実際に「らんまん」の放送が開始された直後に、来園者数が増えたという実感もあったのでしょうか?
橋本様:ドラマをきっかけに植物に興味を持って来られる方は一気に増えました。牧野富太郎博士に関するお問い合わせやドラマを見て疑問や興味を感じた方からのお問い合わせも増えていましたね。
牧野博士逝去の翌年に開園されていますが、どのような経緯があったのでしょうか?
橋本様:牧野博士は青年の頃までは高知で過ごして、あとは東京に住まれて活躍されていたんですけど、世界的に有名になった牧野博士を顕彰する施設を作りたいという話が、晩年に盛り上がってきて始まったのがきっかけです。その中で、牧野博士に相談して植物園の場所の候補を挙げたんですけど、そこで選ばれたのが高知の五台山だったという形です。五台山はお寺の敷地の一部ではあったんですけど、当時のご住職から土地を譲り受けることができて、工事の着工が始まりました。
TERRARIUM編集部:高知県の五台山という場所は、実際に牧野博士が選ばれた場所だったのですね。
橋本様:ただ、その完成を見ることなく亡くなってしまって、その翌年に植物園がオープンしたという形でした。
TERRARIUM編集部:そのような経緯があったんですね。高知県の五台山という場所は、牧野博士のゆかりの地だったのでしょうか?
橋本様:高知に住まれていた若いころから、県内の様々な箇所を散策して植物採集を行っていまして、五台山もその中で歩いた場所の1つでした。実際に五台山で植物を採取した標本などを元に学名発表した植物もあったりするので、ゆかりの地の1つだったということはありますね。
牧野富太郎記念館では、牧野博士が描かれた植物図なども見られるのでしょうか?
橋本様:牧野博士が亡くなってから東京都の方に寄贈されたのですが、重複標本と呼ばれる標本などの一部を園が譲り受けました。博士が収集していた書籍類45,000冊は園にあります。植物図は収蔵しているのですが、資料の保護の観点からすべての資料を一般公開はしていなくて、非公開として管理をしている状況です。
TERRARIUM編集部:展示館では複製の植物図などが見られるのでしょうか?
橋本様:展示館では複製なんですけども、複製ばっかりを展示するだけではなく、企画展などで、一部入れ替えながらガラスケース内で展示をしています。
TERRARIUM編集部:タイミングよく企画展などのイベント時に訪問できたら見れる可能性もあるんですね!
橋本様:そうですね!企画展のコンセプトに合わせた展示物であったり、遺品であったり、植物図を御覧頂いています。
夜間開園はどういった時期に実施されるのでしょうか?
橋本様:定時で実施しているイベントとしては年3回あります。1つが、「桜の宵」というタイトルでして、園にある樹齢60年以上の大きな桜の木を中心にライトアップをして、桜やその周りの花木を楽しむという夜間開園です。もう1つは、「夜の植物園」というタイトルの夏場に開催するイベントで、夜になると開花する、香りを放つ、葉っぱを閉じるなどの植物を主にご覧いただいています。あとは、秋に行うお月見の会「観月会」というイベントの3つがあります。
TERRARIUM編集部:夜限定の植物の姿も見ることができるんですね!また、日中とは違った雰囲気を感じられそうですね。
橋本様:イベントに合わせた演奏をしていまして、クラシックギターなど演者さんをお呼びして雰囲気を作ったりしています。日中とは違った植物園の風景をお過ごしくださいという形でお楽しみ頂いています。
TERRARIUM編集部:夜間開園以外にも様々なイベントを実施されていたりもするのでしょうか?
橋本様:夏休みシーズンは、スタンプラリーや食虫植物展、そのほか企画展や各種栽培教室を実施していたりします。
植物園では日常的に研究活動も行われているのでしょうか?
橋本様:植物研究課という専門の課がありまして、いろんな分野の研究員がいます。植物分類学の専門であったり、種の保全を専門としている方、野外研究を専門に行なっている方などです。他にも国と連携してミャンマーの植物調査を行っている研究員や、薬用植物を専門とする研究員も在籍しています。
TERRARIUM編集部:研究自体は入園される一般の方とはあまり関わりのないものになるのでしょうか?
橋本様:2023年の5月に植物研究交流センターという研究施設がオープンしまして、研究員が実験などをしている様子をガラス越しで見ることができるようになりました。交流という名前がついているように、より企業と植物園と一般の来園者がうまく交流してより植物の研究を身近に感じてほしいという思いがあります。
TERRARIUM編集部:研究が行われている様子を見る機会は、普段なかなかないですもんね。子どもの頃に見にきても良い刺激になりそうです!
橋本様:植物園は憩いの場や植物を見ることがメインとして利用されることが多いのですが、植物の研究が植物園の事業として大きな柱となっていることを知ってもらうきっかけになると思っています。ほかにも、未来の植物の研究者や第2の牧野博士を育成することを目指した教室も行っています。
TERRARIUM編集部:研究施設を持った植物園はあるのかも知れませんが、実際に見学できたりする場というのは珍しそうですよね。
橋本様:大学の薬用植物園などはあったりするのですが、一般公開している所ばかりではありません。当園は、研究にも触れてもらい、より開かれた植物園を目指したいという思いがあったので、昨年5月に一般の方々の目にも触れられるようにしました。毎月2~3回程度は、キッズラボプログラムという教室も主に小学生を対象に開催していまして、研究員が植物の特徴や不思議であったりを講義しています。
これからの牧野植物園の取り組みや思いについてお伺いできますでしょうか?
橋本様:個人的なものにもなってしまうのですが、植物園は本来研究施設で、植物を後世の残していく役割があるのですが、それを一般の方に直接伝えてもピンとこないことが多いと思うんですよね。なので親しみを持ってもらえるようにイベントや教室を実施したりしているんですけど、「勉強しにいこう」ということではなくて、もっと気軽に植物園に来ていただいて、写真を撮影するなどして植物を身近に感じてもらいたいと思っています。その先で実際に育ててみることや種の保全などに興味がでてくるのではないかと考えています。
牧野植物園の基本情報
植物園名 | 高知県立牧野植物園 |
所在地 | 〒781-8125 高知県高知市五台山4200-6 |
電話番号 | 088-882-2601 |
営業時間 | 9:00~17:00 (最終入園16:30) |
休園日 | 年末年始 12/27~1/1 メンテナンス休園 2024/6/24、9/30、11/25、2025/1/27 |
入園料 | 一般730円 (高校生以下無料) 団体630円 (20名以上) 年間入園券2,930円(1年間有効のフリーパス) |
公式HP | https://www.makino.or.jp/ |