森の動きを捉える 熱帯季節林の世界~名古屋大学 中川弥智子先生~

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今回は名古屋大学 中川弥智子先生にインタビューさせていただきました。熱帯の植物についてお伺いします。 

テラリウム編集部:中川先生、本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。まずは先生の研究内容について教えていただけますでしょうか。

中川先生:私の研究の目的は、「森の動きを捉える」ことです。具体的には、定期的に森林に足を運び、木の成長や動物の行動などを観察しています。例えば、樹木のサイズを測ってその枯死を記録したり、花や果実の生産量を調べたりしています。これらの観察と環境要因の計測を繰り返すことで、森の動きの変動要因を明らかにしようとしているのです。

テラリウム編集部:なるほど。先生が研究対象とされている熱帯季節林樹木について、詳しく教えていただけますか?

中川先生:はい。熱帯季節林は、熱帯雨林とは異なる特徴を持っています。最大の違いは、雨季と乾季の存在です。熱帯雨林では年中温暖で雨が多いのに対し、熱帯季節林では明確な乾季と雨季があります。この気候の変化が、樹木の生態に大きな影響を与えているのです。

テラリウム編集部:興味深いですね。具体的にどのようなものを計測されているのでしょうか?

中川先生:基本的な研究内容は熱帯雨林と熱帯季節林で同じです。様々な地域で同様の調査を行い、年々の変動や長期的な変化を捉えています。例えば、樹木の成長速度や枯死率、葉の展開や落葉のタイミング、花や果実の生産量や樹木と関わりのある動物の種類や個体数を見ています。これらのデータを積み重ねることで、各地域での森林動態の特徴を理解したり比較したりしようとしているのです。

テラリウム編集部:なぜ熱帯の植物に注目されたのでしょうか?

中川先生:率直に言って、日本とは全く異なる環境に興味を持ったからです。日本の温帯林とは異なる生態系や、そこに生きる多様な植物たちの生存戦略に魅了されました。また、個体や群落レベルでの反応を観察することで、より大きなスケールでの森林の動きを理解できると考えたのです。

テラリウム編集部:植物にストレスがかかるとき、どのようなプロセスが起こるのでしょうか?

中川先生:熱帯季節林の場合、最大のストレス要因は乾燥です。乾燥ストレスを受けると、まず成長速度が遅くなり、葉を落とす樹種もあります。しかし、熱帯季節林の樹木は長い進化の過程でこのストレスに適応してきました。例えば、水を効率的に利用する仕組みを持っていたり、乾季に反応して深い場所から水を吸い上げたりしています。

テラリウム編集部:これまでの熱帯での研究で明らかになったことはありますか?

中川先生:いくつか興味深い発見がありました。例えば、強い乾燥がおこると一時的に樹木の枯死率が高まり森は衰退するものの、その後には高い加入率が観察され、全体としては高い回復力を持っていることが分かりました。ただし、気候変動の影響が強まれば、この回復力が低下する可能性も示唆されています。

また、熱帯地域の植物と動物の関係が、一般的な教科書の説明よりもはるかに複雑で、例えば、果実を食べる昆虫と植物の関係は種特異的でないことも多くあることが明らかになってきました。昆虫を含めた動物による送粉や食害、種子散布の仕組みなど、まだ解明されていない点が多くあります。

テラリウム編集部:研究を進める上で、最も苦労した点はどのようなことでしょうか?

中川先生:フィールド調査の継続の難しさですね。熱帯の森林は非常に多様で複雑です。想定外の事態に柔軟に対応する必要があり、また多様な植物の同定に時間がかかることもあります。さらに、長期的な観察が必要なため、忍耐強く継続的にデータを収集し続けなければなりません。

しかし、こうした困難を乗り越えることで、予想外の発見があったり、一緒に調査を行っている学生達や地元関係者の成長を感じられたりするのも、この研究の醍醐味です。

テラリウム編集部:研究を通じて感じているやりがいや、研究意欲の原動力について教えていただけますでしょうか?

中川先生:新しい発見やアイデアが生まれる瞬間は、本当にワクワクします。しかし、それだけでなく、人との関わりも大きな原動力になっています。熱帯の森林での野外調査ではチーム内での協力が欠かせません。共同研究者との議論や、学生たちと一緒にフィールドワークをする中で、新たな視点や発想が生まれることがあります。こうした人との交流が、研究の展開や成果につながっていくのです。

また、自分の研究が少しでも地球環境の理解や保全に貢献できるという思いも、大きなモチベーションになっています。

テラリウム編集部:最後に、テラリウムの読者(植物に興味を持った人たち)に向けて、一言お願いいたします!

中川先生:植物の魅力は、じっくり観察することで見えてくるものがたくさんあります。ぜひ、自分の目で植物を観察し、気づいたことを大切にしてください。そして、可能であれば熱帯林にも足を運んでみてください。日本の森林とは全く異なる世界が広がっています。

名前中川 弥智子
職位准教授
所属組織名古屋大学生命農学研究科
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TERRARIUM編集部です。SDGsや環境に関連するコラムをお届けします。
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