”宇宙園芸”で地球上と宇宙両方の豊かさを目指す 千葉大学 中野教授にインタビュー

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今回は千葉大学の中野教授にインタビューしました。

中野教授は、未来へ豊かな環境を次世代へ引き継ぐため、農業のロボット化や資源循環など、地球上と月面での生活両方に活用できる宇宙園芸の研究に取り組んでいます。

さまざまな角度から挑む園芸と研究テーマ

テラリウム編集部:中野教授が取り組まれている研究テーマについて教えていただけますか?

中野教授農業のうち園芸、特にハウス栽培に関するものです。ハウス栽培は園芸の中でもおおむね売り上げの半分、重要なトマトやイチゴなどでは生産量の7割以上がハウス栽培です。施肥管理の先端技術である、養液栽培において肥料を減らしながら農作物や種子を生産する研究や、ロボット化による作業の軽労化のための技術開発を行っています。また、肥料価格の高騰に対応するため、廃棄物を有効活用する物質循環の研究も進めています。

さらに、これらの技術を地球上と月面の両方に応用することを考えています。例えば、月に1キロのものを持っていくのに1億円かかる。トマト1キロを送ろうとすると1億円かかるので現地で作る必要がある。すると月では資源が限られているため、循環型農業が非常に重要になります。この考え方は地球上での循環型農業にも繋がっていきます。

資格で磨くコミュニケーションと説得力

テラリウム編集部:技術士(農業)、土壌医、野菜ソムリエ上級プロなど様々な資格をお持ちですが、これらを取得しようと思ったきっかけはどのようなことでしたか?

中野教授:技術士(農業)は、農林水産省の農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)に勤務していた頃、技術と社会の関係を学びたいと思って取得しました。野菜ソムリエも、農林水産省で園芸の調査官というポストに就いたことがきっかけ。ソムリエは座学もあるけど、コミュニケーションが重要と言われていて、様々な人とのコミュニケーションを取り、国会議員や消費者の方に研究成果をわかりやすく伝えるのに役立つと考え取得しました。

土壌医については、私の主な研究テーマが養液栽培なので、「土壌のことを知らないから養液栽培を推進している」と言われることがあります。そんな時に「私は土壌医なので知っています」と言えると説得力が増すんです。このように、資格は話のフックとしても役立っています

園芸研究者から見た野菜や果物の魅力

テラリウム編集部:野菜や果物のどのような部分に魅力や楽しみ方を感じていらっしゃいますか?

中野教授:生産者の目線では、野菜や果物はバラエティが多く、付加価値をつけやすい点が魅力です。技巧を凝らしたり改良を加えやすいのも特徴ですね。消費者の視点からは、生活に彩りを添えるとともに、ミネラル、ビタミン、機能性成分を通じて人の健康に貢献する農産物だと考えています。

基本的に、私は植物、特に野菜が非常に重要だと考えています。野菜や果物の生産・消費量を増やせば、生活習慣病や環境問題など、様々な問題が解決すると思っています。そのために、付加価値の高いものを作ったり、その魅力を発信したいと考えています。

宇宙空間を想定した農業に着目

テラリウム編集部:宇宙空間を想定した農業に着目したのはどのような理由からでしょうか?

中野教授地球上での窒素とリンの問題、特に肥料の過剰使用による水質汚染などは、既にプラネタリーバウンダリーの限界を越えており、農業が積極的に取り組むべき課題です。これらの元素循環を考える上で、月面基地は一つのモデルケースになると考えました。

月には窒素やリンがないので、そこで生活することを考えると、これらの元素をどうするか真剣に考えなければなりません。生物が生きていく上で貴重な元素なので、より精密な循環利用が求められるのです。

つまり、地球の問題を極限まで考えていくと、宇宙で本気で生活することに行き着くわけです。そして、月面をモデルに考えられた循環技術は、地球における農業の循環技術にも応用できると考えています。

レタスの残渣からレタスを作る?

テラリウム編集部:なるほど、とても興味深いですね。それでは、循環技術開発のうちの一つである、レタスの残渣活用の研究内容について詳しく教えていただけますか?

中野教授:はい。最近カット野菜の消費が増えていますが、例えば長野県でレタスを作って商品として届くまでに、半分くらいが残渣として捨てられている。この残渣を活用できないかと着目しました。

JAXAのプロジェクトで、カット野菜大手のデリカフーズと連携して研究を進めました。具体的には、レタスの残渣を効率的に液状化する技術、それを分離して成分を安定化させる技術、そしてその液体を実際にレタスの栽培に利用できるかを検証しました。つまり、レタスからレタスを作れないかという発想です。

研究で苦労したこと

テラリウム編集部:今回の研究で一番苦労した点はどのようなことでしょうか?またどのように乗り越えられたでしょうか?

中野教授:プロジェクトを進めていく上で最も苦労したのは、様々な人や民間企業との連携を調整しながら、限られた期間と予算の中で全体を動かしていくことでした。また、研究では想定通りの結果が得られないこともあります。そういった時に、なぜそうなるのかという答えを見つけ出すまでが本当に大変でした。

残渣を利用して化学肥料80%削減に成功

テラリウム編集部:今回の研究結果について教えていただけますか?

中野教授:まずレタスの残渣を肥料として使用可能な液体に加工し、成分が分解しないような前処理を施しました。また、溶けない固形部分は添加剤として利用できるよう開発しました。

そして、肥料成分のバランスと効果的な与え方を組み合わせることで、化学肥料を80%削減してもレタス生産が可能であることを実証しました。

理想的には、1個分のレタスの残渣からそのまま1個のレタスができれば面白いですね。月面では資源が限られているので、今回の研究では量を厳密に記録しながら、そういった一対一の関係を実現できる資源循環を考えています。

足元の課題は宇宙に繋がる

テラリウム編集部:今回の研究結果を踏まえて今後どのような展開を考えていらっしゃいますか?

中野教授:「Think locally, act globally」という言葉がありますが、私は「Think locally, act on the Moon」で展開したいと考えています。足元の課題が宇宙まで繋がっているんです

宇宙では閉鎖空間で資源を循環させ、持続的に食料を生産する視点が極めて重要になりますが、これを地球上の課題に応用することができます。例えば、現在千葉市と連携して、下水から発生する燃焼灰などの活用について共同研究を行っています。

また、美味しいトマトの研究も宇宙に繋がっています。ある宇宙飛行士から直接聞いたのですが、宇宙では味を感じにくくなるそうです。そのため、トマトでも超高糖度でないと美味しく感じないのではないかと考え、現在民間企業と糖度13度のトマトの生産技術の研究を進めています。

種子生産と薬になる農産物への取り組み

テラリウム編集部:本研究以外に、中野教授が現在進められている研究についてお伺い出来ますか?

中野教授:はい、いくつか進行中の研究があります。

まず、ビニールハウスでの持続的な施設生産を重視しています。現在、冬にトマトを栽培すると、100gのトマトを作るのに約100mlの燃料を消費しますが、今後は化石燃料を使わない持続的な施設園芸に関する研究を進めています。

次に、食料安全保障の観点から、植物工場で効率よく種子生産をし、種子の自給率を高める研究を行っています。現在、農産物の種子はほとんど海外に依存しているため、国際情勢が不安定化する中でこの研究は重要です。

さらに、高付加価値の農産物として、米にワクチンを効率良く集積させる研究も行っています。農水省のプロジェクトで花粉緩和米の研究を約20年間実施しており、高品質で薬レベルの米を作る研究を進めています。これは、人の免疫をターゲットにしたタンパク質やペプチドを植物に効率的に生産させる研究です。

「好奇心」と「貢献」が研究の原動力

テラリウム編集部: 先生が研究を通じて感じているやりがいや、研究意欲の原動力について教えていただけますでしょうか?

中野教授:私の研究意欲の原動力は、新しいものへの好奇心と、世のため人のためという使命感です。

高校生の時に科学雑誌で「ポマト」の記事を読んだのが研究者を目指すきっかけでした。細胞融合で地上部にはトマト、地下部にはポテトができるという斬新な研究に感銘を受け、食料問題解決に繋がる可能性を感じてバイオテクノロジーを学ぶために農学部へ進学しました。

そして、命を育む環境を維持し、増加し続ける人口に対応しながら、次世代へと農業を引き継いでいくという使命感が、私をずっと突き動かしています。好奇心と社会貢献への意欲が、最も重要な原動力になっていますね。

今後も国内外で問題となっている食料生産の課題にこだわり続けて取り組んでいきたいと思っています。

若手研究者や学生へのメッセージ

テラリウム編集部:ありがとうございます。最後に、若手研究者や学生に向けて、研究を進める上でのアドバイスをいただけますか?

中野教授:もちろんです。まず、研究や論文も大切ですが、研究成果を社会実装していくことも非常に重要です。また、専門分野が細分化される時代だからこそ、幅広い分野と連携して新たな地平が開けることもあります。広い視野を持つことが必要になってくるでしょう。

長年研究を続けていると、若い頃にやっていたことが自分の人生の伏線になっていると感じることがあります。30年前にやっていたことが今に繋がったりするんです。また、知らず知らずのうちに様々な人と繋がっていて、以前関わりのあった人と時間や場所を変えて思わぬ巡り合わせがあるのも面白いところです。

若い人には、ぜひそういった繋がりを大切にしてほしいですね。広い視野を持ち、様々な経験を積み重ねていけば、きっと将来に活きてくると思います。

お話を聞いた人のプロフィール

名前中野 明正
職位教授
所属組織千葉大学 園芸学研究院 宇宙園芸研究センター
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編集者・ライター
TERRARIUM編集部です。SDGsや環境に関連するコラムをお届けします。
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