植物のリン酸吸収能力を上げ、肥料が不要な農業を目指す 東京工科大学 多田雄一教授にインタビュー
今回は東京工科大学の多田雄一教授にインタビューしました。 肥料による環境汚染や肥料原料の枯渇などの問題が起きている中、植物の肥料成分の吸収・利用能力を高めることで肥料が不要な作物を生み出すことを多田教授は目指しています。 植物のリン酸吸収・利用能力に関する研究のきっかけ テラリウム編集部:植物のリン酸吸収・利用能力に関する研究を始められたきっかけを教えていただけますか? 多田教授:いくつかありますね。まず、リン酸吸収に興味を持つ学生が配属されたことがきっかけの一つです。また、肥料の3大成分のうち、カリウム吸収能力の強化がある程度できたので、次はリン酸の強化が必要だと考えました。 植物のリン酸吸収能力は弱く、施肥したリン酸の15〜30%しか吸収されていません。リン酸は不溶性の塩を形成しやすいため、土壌に含まれていても植物が吸収しにくい形で存在しているんです。これにより環境汚染、特に富栄養化などの問題が起きています。さらに、リン酸肥料の原料であるリン鉱石は石油より早く枯渇が予想されていることも理由の一つです。 植物体内でのリン酸の働き テラリウム編集部:リン酸は植物にとってどのような働きを持つ成分なのでしょうか? 多田教授:リン酸は「実肥」と呼ばれていて、開花や結実を促進します。また、DNAや細胞膜の構成成分として働くほか、エネルギー生産、光合成、糖代謝など重要な機能を担っています。花が咲いても実がつかないような場合、リン酸を与えると実がつく可能性があるんですよ。 リン酸肥料の原料が枯渇する? テラリウム編集部:リン酸肥料の原料となっているリン酸鉱石の枯渇問題について教えていただけますか? 多田教授:私もその分野は詳しくありませんが、ある予測では早ければ2070年ごろに枯渇するそうです。リン鉱石は中国、モロッコ、米国など特定の地域に偏在しており、近年は輸入価格も高騰しています。 一方で下水からの回収など、リン酸資源の再生の取り組みも行われていますので、問題が解決したりリン鉱石の使用量を抑えることで枯渇までの期間が延びる可能性もあります。 研究によく使われる植物たち テラリウム編集部:今回の研究に小麦とシロイヌナズナを使った理由は何でしょうか? 多田教授:コムギのリン酸トランスポーターを調べた研究で比較的良好な結果が得られていたため、その遺伝子を利用することにしました。シロイヌナズナはモデル植物と呼ばれていて、一世代のサイクルが早く、2ヶ月ほどで種子ができます。蛍光灯の光でも育つことができ、実験室で十分育つので扱いやすいというのも大きな理由です。また、植物の中で一番最初に全てのゲノム配列が読まれた植物でもあるんです。 リン酸の吸収能力を向上させることに成功 テラリウム編集部:研究結果について教えていただけますか? 多田教授:遺伝子にはプロモーターという転写調節領域があります。これは遺伝子のスイッチのようなもので、遺伝子をいつ、どの細胞で、どれくらいの強さで働かせるかを決めています。私たちは、コムギのリン酸トランスポーター(輸送体)を根の表皮で働かせた場合、吸収能力と成長が向上することを発見しました。世界中の研究者の中で今までそのようなリン酸トランスポーターを使った研究をしている人はいなかったのですが、やってみたら思いがけずよい結果が出ました。最近では、根の維管束という場所で働かせた場合にも同様の効果が確認できました。 研究で苦労したこと テラリウム編集部:研究で一番苦労した点はどのようなことでしょうか?また、どのように乗り越えられましたか? 多田教授:はじめはリン酸トランスポーターを強化しても何もよい変化がありませんでした。よくある話ですが、そこで諦めず方向性を替えて研究を続けたことがよい成果につながりました。 今後の展望 テラリウム編集部:今後の研究の展望についてどのようにお考えですか? 多田教授:リン酸トランスポーターをより適した場所、タイミング、強さで働かせることで、リン酸吸収能力や成長をもっと改良できるかもしれません。さらに、リン酸だけでなく、カリウムや窒素の吸収能力を高めることができれば、肥料が不要な作物ができるかもしれません。また、今後は日本の主食である米を用いて同じ研究をしようと考えています。発展途上国などの肥料が手に入らないような国の作物にそのような能力を与えられるようになれば、農家の方は喜ぶでしょうね。究極の目的は、川の水に含まれている程度の肥料成分で育つ植物を作っていくことです。 スマート農業を目指す「食と農の未来研究センター」 テラリウム編集部:多田先生がセンター長に就任された「食と農の未来研究センター」についても教えていただけますか? 多田教授:このセンターではスマート農業がメインテーマです。コンピューター制御で効率的に作物を育てる研究を進めています。特に小規模農家でも取り入れられるような技術を開発したいと考えています。高額な費用をかけなくても気軽にできるようなものを開発したいですね。弱者の味方になれればと思っています。 小さな成功を喜びながら、地道に研究を続けていくこと テラリウム編集部:最後に、若手研究者や学生に向けて、研究を進める上でのアドバイスをいただけますか? 多田教授:研究は地味でほとんどが失敗します。地道に続けることが重要です。「成功するまで続けたこと」が成功の秘訣だという話がありますが、その通りだと思います。 失敗ばかり続くと途中で心が折れることも多いんですが、さらに続けると突然上手くいったりすることがあります。「明日はきっと何かある」と自分に言い聞かせるしかないですね。諦めたら終わりですから。大きな成果はなかなかなくても、小さいものであれば年に1回くらいは出るものです。 お話を聞いた人のプロフィール 名前 多田 雄一 職位 教授 所属組織 東京工科大学 応用生物学部 地球環境コース
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