ゴルフ場における草原生植物の保護と生育の可能性 甲南女子大学 松村俊和教授にインタビュー

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今回は甲南女子大学の松村俊和教授にインタビューしました。

環境破壊のイメージが強いゴルフ場ですが、全国的に失われている草原生植物が今でも残されている貴重な場所だという、意外な一面に松村教授は着目されています。

ゴルフ場に生息する植物の植生に関する研究のきっかけ

テラリウム編集部:ゴルフ場に生息する植物の植生に関する研究を始めることになったきっかけをお伺いできますでしょうか?

松村教授:以前は水田畦畔や草原、スキー場などの植生を調査していました。研究を進めていくうちに、人があまり立ち入らないようなゴルフ場や自衛隊の演習場には面白い植物があるのではないかと考え始めました。実際に神戸市主催で神戸ゴルフ倶楽部を調査したところ、マツムシソウなど珍しい植物が生息しており、ゴルフ場にそういった植物が存在することに興味を持ちました。そこから神戸ゴルフ倶楽部と縁ができ、10年ほど研究を続けています。

ゴルフ場は自然が豊富?

テラリウム編集部:ゴルフ場の中でも歴史の長いゴルフ場に焦点を当てたのはどのような理由からでしょうか?

松村教授:ゴルフ場は「自然破壊」の象徴として取り上げられることが多いですが、実際には自然が豊富な場所もあります。それは、森林を開発した土地ではなく、まだ草原が全国的に分布していた時代に、もともと草原である場所をそのまま利用して造成されたゴルフ場です。神戸のように居留地があり外国人が昔から利用していたような歴史の長いゴルフ場は、草原だった場所に造成されているので研究対象として魅力的でした。神戸ゴルフ倶楽部をはじめ、芦屋カンツリー倶楽部、鳴尾ゴルフ倶楽部、宝塚ゴルフ倶楽部、西宮カントリー倶楽部など5つのゴルフ場を調査させていただきました。

ゴルフ場が種子供給源になる可能性

テラリウム編集部:人工的な環境であるゴルフ場が、絶滅危惧種を含め草原生植物の避難場所や種子供給源になる可能性があるのは何故なのでしょうか?

松村教授:もともと草原だった場所を利用しているゴルフ場では、ゴルフ場が造成される以前に生息していた草原生植物がそのまま残っていることがあります。100年前と比べると国内に現存する草原は1%ほどまで減少したと考えられてます。ゴルフ場では草刈りによって草原の状態が維持されているため、ラフなどに昔からの草原生植物が残っています。グリーンキーパーの方の考えで植物を残したり、樹木の根が張って凸凹しているような重機が入れない場所にも珍しい植物が残ったりしているので、貴重な種子供給源となっています。草原生植物が維持され種子供給源となるゴルフ場としては、歴史が長く、植物を刈りすぎず、重機が入っていないことがポイントだと思います。

草原生植物の役割

テラリウム編集部:草原生植物は生態系全体としてどのような役割を担っているのでしょうか?

松村教授:草原は火入れ(野焼き)や茅葺きに利用されたり、光合成により炭素固定を行っています。また、草原にしか生息しない動植物も生息しており、そういった生態系を守っていく役割があります。

研究の魅力

テラリウム編集部:草原生植物の調査や研究に数多く取り組んでいらっしゃる印象がありますが、松村教授が感じていらっしゃる草原生植物の魅力はありますか?

松村教授:特定の植物の魅力というよりは、研究すること自体が好きです。慣れてくると刺激が減ってきますが、新しいフィールドで珍しい植物に出会うと発見があって魅力的です。

調査のスケジュール調整の難しさ

テラリウム編集部:今回の研究で一番苦労した点はどのようなことでしょうか?

松村教授:とんでもない坂になっている地形をかき分けて調査する時などは身体的にしんどいですし、植生が多様な箇所での調査は頭がこんがらがってくることもあります。またゴルフ場の休場日は月曜日が多いので、週に1度しかチャンスがなく、スケジュール調整が難しいこともあります。山の上にあるゴルフ場は冬季閉鎖され、夏は毎日営業するため、営業時間外の限られた早朝の時間帯に調査に向かわなければならず大変です。畦畔草原や私有地の調査は、草刈りが始まるタイミングより前に訪問しなければならないのが難しい点ですね。

ゴルファーの反応は?

テラリウム編集部:ゴルフ場が草原生植物の保護や生育に重要な場所になる可能性があることについて、ゴルファーの方々から反応はありましたか?

松村教授:まだ反応については詳しく調べられていませんが、女性ゴルファーの中には、ゴルフを楽しむだけでなく、植物観察を楽しみにゴルフ場に来られている方もおられます。季節ごとに咲いている花の情報を共有して楽しんでおられるようです。今後はゴルフ場の植生を冊子にしてスコアブックに差し込むなどの工夫をしたいと考えています。全ての人でなくても、1割か2割の方に関心を持ってもらえたら嬉しいですね。

今後の課題

テラリウム編集部:今回の研究を踏まえて今後どのような課題がありますか?

松村教授:草原が減少する中、ゴルフ場やスキー場、放牧地として現在も草原を維持している場所がありますが、近年では閉場するところも多くなっています。もともと草原だった場所が放置され荒れてしまうと多様性が失われてしまうので、そういった問題についても考えていく必要があります。

現在行っている研究

テラリウム編集部:草原生植物の研究の他に、現在どのような研究に取り組んでいらっしゃいますか?

松村教授:現在はプログラミング言語Rを使って分析の研究をしています。ある植物が生息する場所には同じような種類の植物が集まっている、ということを感覚的には感じていますが、本当にそうなのかを確かめるために、2024年度から科研費をもらってモデリングの研究を進めているところです。最近は忙しくてフィールドワークに行けないこともあるので、R言語でモデリングしていくことで価値を出していきたいと考えています。

自分なりの目標を持って達成していくこと

テラリウム編集部:先生が研究を通じて感じているやりがいや、研究意欲の原動力について教えていただけますでしょうか?

松村教授:プログラミングや草原の調査など、自分の好きなことをやっていると時間を忘れます。色々な場所に行ってぼーっと眺めたりするのも好きです。以前は他の人より先に研究して発表したいという気持ちもありましたが、今は考え方が変わってきて、自分なりの目標を持って達成していくことが原動力になっています。少しでも自分が楽しんで人のためになれればいいなと思っています。

お話を聞いた人のプロフィール

名前松村 俊和
職位教授
所属組織甲南女子大学 人間科学部 生活環境学科
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編集者・ライター
TERRARIUM編集部です。SDGsや環境に関連するコラムをお届けします。
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