「サフランのより良い栽培と供給を目指して」近畿大学 薬学総合研究所 角谷晃司教授にインタビュー
今回は、近畿大学薬学総合研究所の角谷晃司教授にインタビューをしました。
角谷教授は、生活の中で多様に活用されているサフランの栽培や供給の問題を解決し、更に活用を進めていくための研究や、今後の可能性について探求しています。
サフランに関する研究のきっかけ
TERRARIUM編集部:本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。早速ですが、サフラン柱頭組織の分化誘導や培養条件の解明等に関する研究を始めることになったきっかけをお伺いできますでしょうか?
角谷教授:日本の企業でも多く活用されているサフランですが、私たちは有用成分が含まれる柱頭組織(めしべ)に着目しました。柱頭組織は重要な部位ですが、必要な量を取ろうとすると球根が10万個必要になります。明治時代から大分県竹田市などで栽培されていますが、短い開花期間にそれだけの球根を取ろうとすると農家さんの負担が多大になってしまうのです。最初は球根を培養していく研究から始まりましたが、柱頭組織だけ培養できたら楽になると考えました。日本のサフランは質が良く好評なんですよ。
日本のサフランは高品質
TERRARIUM編集部:日本のサフランが品質が良いというのは、どのような理由からでしょうか?
角谷教授:日本では光が当たらない室内環境で栽培できているのが大きな理由です。他の国ではあまりそのような栽培環境がないんです。柱頭組織は紫外線に弱く、屋外での栽培だと劣化してしまうのです。成分が紫外線を受ける身代わりになってしまうからです。海外では人件費やお金の関係で室内で栽培することが難しいのが現状です。
生薬、スパイス、染料。多彩な活用方法
TERRARIUM編集部:サフランに含まれるクロシンはどのように活用されているのでしょうか?
角谷教授:食品、サプリメント、生薬、化粧品などに活用されています。例えば、サプリメントでは他のものと配合されて女性の腹痛などに効果があるとされています。生薬ではPMSや婦人薬に使われます。また、パエリアやスパイスとしても知られていて、香りが精神安定に良いとされています。さらに、染料としても使われ、インド国旗の色にも使われているんですよ。サフランの黄色はヒンドゥー教を表しているそうです。
何故クロシンは生成されるのか?
TERRARIUM編集部:クロシンは人間にとって有用な成分ですが、サフラン自身にとってはどのような機能を持った成分なのでしょうか?
角谷教授:サフランはクロッカス属に分類され、約80種あるうちの1種なのですが、興味深いことにクロシンを作るのはほぼサフランだけなんです。柱頭に紫外線が当たると受精がうまくいかないのではないか、あるいは虫を誘引するためではないかと考えられています。特に冬場は虫が少ないので、香りで誘引しているのかもしれません。ただ、これらは全て仮説の段階です。
金より高価な生薬!?
TERRARIUM編集部:角谷教授が感じていらっしゃるサフランの魅力や好きな点はありますか?
角谷教授:サフランはめしべ100gを採取するのに球根が1万個ほど必要で、世界で一番高価な生薬と言われているほど経済的価値が高いことが魅力ですね。金より高いとも言われています。
苦労したのは「適した培養条件を見つけること」
TERRARIUM編集部:今回の研究で一番苦労した点はどのようなことでしょうか?またどのように乗り越えられたでしょうか?
角谷教授:柱頭組織の培養条件を見つけるのが難しかったですね。温度、培地、植物ホルモンの濃度や比率を調整していくのですが、温度でいうと25度という一定温度での管理だと反応があまり見られず、15度くらいで培養して一気に25度までヒートショックをかけてあげることで分化に適した条件を見つけました。また、花の採集時期が11〜12月と短いので、花茎を採取するのにも苦労しました。
どの部分から分化しやすい?
TERRARIUM編集部:サフランのどの部分を培養するのが効率的なのでしょうか?また、柱頭組織が分化するのに適した部位はあるのでしょうか?
角谷教授:花茎の部分、特に直径2〜3mmの部分が分化に適していることがわかりました。10cmほどある花茎からその部分を用いて培養するという研究を進めています。
開花時期の調整
TERRARIUM編集部:サフランは11月〜12月しか開花しないそうですが、開花時期を調整する研究はされているのでしょうか?
角谷教授:はい、温度管理によって9月中頃に咲かせることに成功しました。ただ、花を咲かせるためにはある程度の球根のサイズが必要で、花の収穫後12〜4月頃に球根を育てる期間が必要なんです。球根を肥大化させるのが一番難しく、竹田市のノウハウが活きています。9月に花を咲かせ、10月から球根を育てて翌年の1月頃に収穫できるサイクルを確立できれば、時期をずらしていって一年中収穫できるようになるかもしれません。
活用していく分野
TERRARIUM編集部:今回の研究を踏まえてサフランの大量生産が可能になった場合、その活用が一番期待される分野は何でしょうか?
角谷教授:食品、サプリメント、生薬、化粧品などの分野での活用が期待されます。特に生薬としてPMSや婦人薬への応用は有望だと考えています。また、香りの精神安定効果を利用したり、染料としての需要もあるでしょう。
サフラン栽培と地域貢献
TERRARIUM編集部:サフラン栽培が広がることで、地域への貢献も期待できそうですね。
角谷教授:そうですね。空き家などを利用して栽培したり、退職後の仕事として取り組めるようにしたりと、雇用創出にもつながる可能性があります。
今後の展望
TERRARIUM編集部:今後の研究の展望をお聞かせください。
角谷教授:サフランに関しては、培養のコスト面や実用化に向けた課題をクリアしていきたいと考えています。また、生薬としても食品としても活用できる他の薬用植物の研究にも興味があります。例えば、ニホンアカネは古くから染料として使われてきました。日本の国旗の色にも使われている由緒ある植物です。1個体から採れる色素の量が少量なので含量の高い海外のセイヨウアカネやインドアカネに置き替わりましたが、国内での生産に向けて、DNA鑑定なども交えながら日本各地に自生するニホンアカネの研究を進めているところです。
好きなことで世の中の役に立てることがモチベーションに
TERRARIUM編集部:最後に、角谷教授の研究の原動力は何だと思われますか?
角谷教授:好きなことをやって、そこから成果を出し、世の中の役に立てることが何よりのモチベーションになっています。色んな農家や企業と提携して研究を進められることも喜びですね。自分の研究が将来社会の役に立つことを願っています。
お話を聞いた人のプロフィール
名前 | 角谷 晃司 |
職位 | 教授 |
所属組織 | 近畿大学 薬学総合研究所 |