「都市環境と宇宙環境の植物研究を進める」京都工芸繊維大学 半場祐子教授にインタビュー

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京都工芸繊維大学の半場祐子教授にインタビューをしました。

半場教授は、都市の樹木を使ってヒートアイランドをやわらげる研究と、宇宙環境下での植物栽培の研究に取り組んでいます。一体どんな研究なのか、インタビューを元にその研究に迫ります。

半場先生について

TERRARIUM編集部:本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。現在半場先生が取り組まれている研究テーマについて、簡単に教えていただけますか?

半場教授:大きく分けて2つあります。1つ目は、都市の樹木を使ってヒートアイランドをやわらげる研究です。2つ目は、宇宙の環境でどうやって植物を育てていくかという研究です。

TERRARIUM編集部:先生の論文は英語のものが多いですが、どうしてでしょうか?

半場教授:英語は基礎研究における国際的な共通言語となっているからです。世界中の研究者と知見を共有し、議論を行うには、英語が必要なんですね。

葉内での二酸化炭素拡散とは?

TERRARIUM編集部:ありがとうございます。先生は「葉内での二酸化炭素拡散」に着目されています。その理由を簡単にお教えいただけますでしょうか?

半場教授:京都大学で博士号を取得した後、筑波大学でポストドクターをしていた時に、光合成と葉内の二酸化炭素拡散の重要性に気づきました。


葉っぱは二酸化炭素を吸収しますが、光合成を行う場所までたどり着くには細胞壁などのバリアを突破しなければなりません。そのバリアの強さがまだ十分に解明されていないため、研究を始めました。

「シダ植物における二酸化炭素拡散と葉の構造との関係」の具体的な調査方法

シダとはこんな植物です

TERRARIUM編集部:研究にある、「シダ植物における二酸化炭素拡散と葉の構造との関係」について、具体的にはどのような調査を行ったのでしょうか?

半場教授:主に2種類の調査を行いました。1つは、日本各地に行ってシダを採取する野外調査で、博士課程の学生が京都、大阪、屋久島などで数日間かけて調査を行いました。もう1つは、大学内で行う室内実験で、栽培した植物の光合成能力を調べました。

「シダ植物における二酸化炭素拡散と葉の構造との関係」の研究結果について

TERRARIUM編集部:原始的なコケ植物から樹木のユーカリまで、さまざまな植物の光合成応答戦略を解明する研究も行っているそうですが、その研究結果についてお聞かせください。

半場教授:コケ植物では、宇宙環境下での植物の振る舞いを研究し、重力の変化に応じて光合成が応答することや、それに関わる遺伝子を発見しました。ユーカリでは、光合成に役立つECHB1という遺伝子が産業的にユーカリの生産性向上に有用であることがわかりました。

ただし、遺伝子組換えに対する規制の厳しさや社会的な反発の大きさが課題となって、パートナー企業としてはその研究内容を活かさない形になったみたいです。

TERRARIUM編集部:ありがとうございます。研究に使った植物の樹齢や育成環境について教えていただけますか?

半場教授:コケ植物は、クローンで増やしています。培地の上で2〜3ヶ月ほど育てたものを使用しました。遺伝子のばらつきを避けるため、北海道大学から1つの系統の胞子を分けていただいています。

国際宇宙ステーションでの実験について

国際宇宙ステーション。機内で宇宙飛行士さんに実験をしていただいたとのこと。

TERRARIUM編集部:2019年には国際宇宙ステーションで微小重力実験を行ったそうですが、権威ある機関の協力をどのように得ることができたのでしょうか?

半場教授:JAXAが宇宙ステーションを使った研究の公募をしていて、それに共同研究者と共に応募したのがきっかけです。2015年にプロジェクトが初めて採択され、その後何回かの審査を経て、2019年に打ち上げられました。

JAXAの方を通じて、微小重力環境下での実験手順などを詳細に計画しました。宇宙ステーションでの実験中は、JAXAの方を通じて宇宙飛行士の方とも通信を行いました。

研究のきっかけは「宇宙好き」から

TERRARIUM編集部:ありがとうございます。先生が「宇宙の環境でどうやって植物を育てていくか」という研究を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

半場教授:研究者仲間のメンバーからお誘いを受けたことがきっかけです。私を含めみんな宇宙が好きです。宇宙環境の研究には、物理系や医学系など、さまざまな分野の方々がいらっしゃるのも魅力です。

苦労した点は「辛抱強さを求められること」

TERRARIUM編集部:研究を進める上で、最も苦労した点は何でしょうか?またどのように乗り越えましたか?

半場教授:とても長い時間がかかることが大変でしたね。何年もかかるプロジェクトに加え、教授として、論文を出し続けなければなりません。

一人ではめげてしまうかもしれませんが、チームでやっているからこそ頑張れましたし、夢を追いかけつつもリスクヘッジは必要だと感じました。

今後の展望

TERRARIUM編集部:この研究結果を踏まえて、今後どのような展開を考えていらっしゃいますか?

半場教授:コケ植物については、光合成に大事な遺伝子がわかったので、その遺伝子の増減によって植物にどのような影響があるかを調べたいと思います。現在もその研究を続けているところです。

やりがいについて

TERRARIUM編集部:先生が研究を通じて感じているやりがいについて教えてください。

半場教授:都市樹木の研究は私が主導していますので、中小企業の社長のように、リーダーシップを取っていくことに大きなやりがいを感じています。

一方、コケ植物の研究は9個ほどの大学でチームを組んで行っているので、大企業のうちの社員のような、チームワークの楽しさを感じています。

忍耐とコミュニケーション能力が何より大事!

TERRARIUM編集部:最後に、若手研究者や学生に向けて、研究を進める上でのアドバイスをいただけますでしょうか。

半場教授忍耐が大切だと思います。研究ではなかなかうまくいかないことが多く、地味な作業の連続ですが、早く諦めないことが重要です。

また、色々な人とコミュニケーションを取ることも必要不可欠です。共同研究者や学生さんたちと一緒に研究を進めるには、寛容な心を持つことが大事だと考えています。

TERRARIUM編集部:本日は貴重なお話をありがとうございました。先生の研究がさらに発展することを祈念しております。

お話を聞いた人のプロフィール

名前半場 祐子
職位教授
所属組織京都工芸繊維大学 応用生物学系
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TERRARIUM編集部です。SDGsや環境に関連するコラムをお届けします。
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